中国武術、カンフーと思想の関係【ご質問回答4】
- 2020.10.23
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- ご質問と回答, 三国志(初心者向け解説), 古代中国思想, 道教
ご質問回答、第四弾です。今回はカンフーなど中国武術について。
前回のご質問回答記事:
本当は今日「法家」について書こうと思っていたのですが(孔明の紹介はそのための準備)、少し疲れてしまったのでまた後日、時間のあるときに致します。
今日は肩の力を抜いて書けそうなこちらのご質問に回答させていただきます。
〔アイキャッチ画像はWithnews『在りし日の武漢』から引用 ※写真は記事下〕
Contents
ご質問:中国の武術と思想の関係性はどうなっているか?
回答:中国武術のジャンルは膨大にあってそれぞれ異なりますが、主に道教が思想のベースになっていると思います。
日本で武術のことを「武道」と呼びます。この「道」も道教から来た言葉です。
中華に仏教が伝来して以降は、僧侶の自衛術として仏教と融合した武術もあります。たとえば少林寺拳法など。
道教も仏教も医術と深く結びついていたため、中国武術は健康促進術という側面も持ちます。
さらに、それらの根底には必ず儒教の道徳精神「五常」が流れています。
各思想の濃度はその武術によって様々なのですが、全ての武術がこのような儒・道・仏がミックスされた思想を持っていると言えます。
もともと中華民間の思想は、政府役人や知識層の学問と違って「〇〇家」などの名称できっちり分けられるものではありません。一般の人々は日常に浸透した文化として、意識もしないまま儒・道・仏が混ざり合った伝統思想を受け取り、実行してきました。
ブルース・リーが欧米に伝えた「カンフー」という言葉も、実は武術そのものを指しているのではなくこのような儒・道・仏が混ざり合った中華の智恵を指します。
では、思想背景をもう少し詳しくご説明するため、簡単に中国武術の歴史をご紹介していきます。
起源は実用的な兵士の技術だった
中国武術の起源は漢代と言われていますが、おそらくもっと古いと思います。戦国時代からあったのではないでしょうか。
と言うのも、当初は戦場に出る兵士たちの教練だったと言われているからです。つまり武器の使い方などの実用的な訓練技法ですね。当然、この頃の武術は素手で戦うカンフーとはかなりイメージが違います。
やがて、町々で住民が自分たちの暮らしを守るための自衛術として拳法が発展します。民間人は武器を手に入れるのが難しいので、徒手で戦う技術があみだされていったのでしょう。
仏教伝来以降、体系的な武術となる
拳で戦う技術がより体系的になったのは仏教伝来以降と思われます。
宗教集団として自衛せねばならなかった仏教の僧侶たちが、戦闘技法として体系的に整えていったようです。
この僧侶たちによって拳法に仏教思想が加わり、宗教的な修行の要素が強くなったのだと考えられます。
特に有名な「少林寺拳法」をあみだしたのはインド人の達磨大師(ダルマだいし)だという伝説があります。あくまでも伝説であって実際は眉唾なのですが、仏教の伝来とともに伝わったインド拳法が中国武術に与えた影響は大きかったでしょう。
本格的な武術ブレイクは清代
現代のような中国武術が本格的に流行しだしたのは比較的に近代となってから。17世紀~20世紀、清代です。
清(しん)という国は漢民族の国ではありません。満州族(女真族)という民族の興した国です。この民族が大陸の土地を奪って占領するために漢民族をかなり激しく弾圧しました。文化は破壊され服装や髪形も改変を強いられ、たくさんの漢民族が殺されたようです。
このため清という国が存在した間ずっと、漢民族の間で政府に対する憎悪がくすぶることになります。
自分たちの土地や文化を奪われたあげく家族を殺されたりすれば、恨みを抱いても当然。気の毒なことです。
(なおDNA的な意味で、漢代から続く純血の“漢民族”という人々が当時まで存在したかどうかは疑問ですが、清政府が民族をはっきり区分したためにアイデンティティは強くなってしまったのだと思います)
この結果、漢民族たちは「いつか我々漢民族が土地を取り戻し、もういちど漢の国をつくる」という悲願を抱くことになります。
このときの悲願が後の革命家、孫文たちのスローガン「漢室(文化)復興」や「光復」につながります。香港デモで使われた「光復」という言葉はもともと、“異民族の弾圧を振り払って漢の栄光を取り戻す”という意味で用いられたのです。
やがて清政府を倒すため、大陸の各地で武装した集団が生まれました。
この集団が訓練して身につけていた戦闘技術の一部が、今我々が目にすることができる中国武術です。
古代からこういった反政府の武装蜂起は道教系の宗教集団が担うことが多いです。だから中国武術のほとんどが道教思想を最も色濃く持つのだと思います。
太極拳は健康法であり立派な武術だった
数ある中国武術のなかでも、最も道教の色合いが濃いのが太極拳(たいきょくけん)でしょう。
読んで字のごとしで「世界は太極から分かれた陰陽でつくられている」と考える陰陽道(いんようどう)を重視しています。
呼吸法を取り入れた武術によって人間の気を高めることができるとし、健康や戦闘力も強まるとされます。ゆったりとした動きで穏やかに見えますが、かつては立派な戦闘術だったようです。
ただし現代中国で一般の人たちが公園で行っている太極拳は、政府が広めた簡易版でラジオ体操に似たものだとか。原始の太極拳がどのようなものだったのかは詳しく分かっていません。(と言うより、本格的な太極拳を大々的に宣伝するとまた中共に弾圧されてしまうから隠れているのでしょう)
カンフーとは何? 世界で最も有名な中国武術、詠春拳
香港出身の武術家ブルース・リー(李小龍)がアメリカの映画界で大スターとなって以降、中国武術が世界中に知られるようになりました。
ブルース・リーが欧米人にも分かりやすい言葉として中国武術を呼んだ言葉が、「カンフー」。
これは漢字で「功夫」と書き、日本語の「工夫」に同じ。
もともとは「勉強・修練・鍛錬・努力・修行…等々」の意味。修行の末に得られる智恵、思想などの意味を含む幅広い言葉です。
どうやらブルース・リーは「中華の伝統、思想、智恵」という総合的な意味を表したくて「カンフー」と言ったものらしい。
何故なら中国武術は、確かに儒・道・仏の中華思想を練り込んだ智恵の集大成だと言えるからです。
「これは単なる格闘技ではないんだ、中華の長い歴史と深い智恵を含んでいる思想なんだ」と欧米人に伝えたかったのでしょう。
正確には、ブルース・リーの武術は詠春拳といいます。広東省で行われていた南方武術で、実用的でとても強い武術だったようです。リーの師匠はイップ・マン(葉問)。多くの華人と同じく大陸から香港へ渡ったイップ・マンが、香港で弟子を育て世界へ中華文化を広めることになったのでした。
彼の物語は映画やドラマになっています。私も『イップマン』シリーズが好きで、だいたい観ています。
イップ・マンの武術に惹かれるのは、無敵の強さがありながらも思想的に深いところです。そんな思想の深さを、ブルース・リーはどうにか世界へ知らしめたいと思ったのではないでしょうか。
ところが今、中華圏(香港・台湾)の若者たちは“中華思想ヘイト”に染まりこんな立派な文化を潰そうとしています。中共が憎いのは理解しますが、だからといって中華文化を丸ごと憎んで攻撃対象としているのは残念だし、実にもったいないことだなあと思います。
いつか中共と中華(漢文化)は別物であることを知って、偉大な伝統文化を愛して欲しいと願います。
お断り 古代以外はあまり詳しくないこと
本日は気楽に雑談させていただきました。楽しいご質問をありがとうございます。
だらだらと書いてしまいましたが、筆者は古代(漢代)以降の中世にあまり詳しくありません。だからたぶん表面的な話しかできていないと思います。中国武術についてより詳しいことが知りたい場合は、専門で書いているサイトさんを訪れてください。
中共は今のところ武術に関しては外国まで手を伸ばして情報操作をしていないようです。このためサイトを検索し閲覧しても大丈夫だと思います。
ただし道教思想は別。
道教は現在、儒教以上に中共政府から睨まれて弾圧対象となっています。日本での情報操作――道教思想を消し去る工作も行われています。たとえば風水に関するサイトや書籍は、嘘の話で書き換えられていますので(道教が存在しなかったことにされている)注意してください。
この道教思想に関して理解することは、現代中国ウォッチでも大変重要です。また後日、別記事で詳しく解説します。
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