儒教とは何か【中国思想をわかりやすくガイド!1】

現代中国~東アジア情勢を考えるのに、中国の思想知識は欠かせません。
これは古臭い漢文の話ではなく、たった今・現在を動かしている生きたエネルギーだからです。
特に東アジア情勢が大きく動き始めた昨今は中国思想の重要性が増しています。中国政府も、他の東アジア諸国も、同じ思想(近代思想含む)を前提として動いているのです。
でも思想の話は難しいし、本もたくさん出ているし、…「何から学んだら良いかわからない!」と頭を抱えている方が多いのではないでしょうか。
そんな迷える初学者のために、このシリーズではざっくり中国思想をご紹介していこうと思っています。
スピード重視でなるべく簡単に書きますが、種類が多いので一記事ずつ分けることにしました。後で総合目次を設けますので、気になるところからお読みください。
初回は「儒教」からご紹介です。
【儒教を学びたい方は孔子学院に誤って入らないようご注意を。こちらの記事をお読みください】
「儒教(じゅきょう)」は東アジアの土台、最重要思想
儒教は古代から近現代に至るまで、中華~東アジアを動かしてきた最重要思想です。
とても長い歴史を持ちますので、儒教を愛するか憎むかはともかく、東アジアの人々は皆この思想を中心に思考しています。日本人も例外ではありません。
そんな儒教について正しく知らないまま東アジアを眺めていると、おかしなカルト思想に洗脳されてしまう危険があります。だから本当にざっくりとで良いので、どんな思想なのか知っていただきたいです。
では、基礎の基礎からご説明していきます。
儒教はいつ生まれた?
儒教(じゅきょう)は、紀元前500年頃に生まれた思想です。
孔丘(こうきゅう)という先生が始祖。この先生は一般には、「孔子(こうし)」と呼ばれます。「子」は先生という意味です。つまり「孔子=孔先生」。
この孔子の名言集、『論語(ろんご)』が儒教の最も有名なテキストです。
本来は、孔子が提示した書物群(経書:古代中華の歴史学・文学・礼儀作法等々あらゆる学問が解説されている教科書の総称)を基礎テキストとした学問を「儒教」と言います。また後世、様々な学び方のバリエーションが生まれています。
このように儒教という学問分野はとても奥深く複雑です。だから、詳しい勉強は後にしましょう。とりあえず最初は「孔丘という先生が儒教をつくったんだぞ」と理解してください。
儒教は「道徳」を説き、教育を重んじる実践系
具体的に、思想の中身を見てみましょう。
儒教とは何か?
ひとことで言うなら
「人間の善良な心(美徳)は、教育で養うことができる」
と説く思想です。
一人一人の人格が立派になれば、社会全体が平穏に治まり皆が幸福になる。
当たり前と言えば、当たり前のことですよね。
儒教はそのための教育テキストを用意し教育法まで説いている学問。哲学的な思索系と言うよりは、“実践系”のカリキュラムと言えるのかなと思います。
儒教の基礎は「仁・義・礼・智・信」という道徳
人間社会を良くするために、一個人から立派な人に育てることを目的とするのが儒教。それならば、まず「人間が目指すべき美徳とは何か」の定義を示さなければなりません。
儒教ではこの定義を「仁・義・礼・智・信」などの五つに分けてわかりやすく説いています※。これが「道徳」の基礎です。
- 仁 …他者を思いやり慈しむ心。人間性、愛情、優しさ。
- 義 …人としての正しい行い。
- 礼 …仁を表現した(心をともなった)礼儀。
- 智 …知識だけではない智恵。深い思想。
- 信 …嘘をつかない、約束を守る誠実さ。
人であるなら目指すべき徳ばかりですね。
(今の中共が叩き潰した徳です。人間性とイコールなので、ここを破壊すれば殺戮マシーンが育つのは当然でしょう)
この道徳は東アジア文化に深く浸透しており、何らかのカルトに洗脳されない限り東アジア人が無意識に身に着けている考え方だと言えます。
もちろん日本社会にも深く根付いています。と言うより、日本はかつて東アジアで最も道徳教育を極めた国でした。現代では少し廃れてしまいましたが、今も皆、無意識にこの道徳を基準として判断していると思います。
※「五常」と呼びます。または「五徳」。この五常が有名ですが他にも徳はあります。たとえば『論語』では「温・良・恭・倹・譲」と説かれています。
何故、孔丘先生はこの思想を説いたか?
孔子が生きていたのは大陸全土が戦乱で荒れた時代でした。
人間の心が荒廃し、裏切り盗み合って殺し合う悲惨な時代。このままでは社会が滅んでしまうと嘆いた孔子は、かつて人々が仲良く幸福に暮らした周(しゅう)という国の礼儀教育を広めれば、また幸福に暮らせるのではないかと考えました。そこで、周の礼儀教育を説いて回る旅を続けたのでした。
儒教の問題点
このように人を優しく立派に育てるための道徳教育が儒教というもの。
何も悪いことなどない……ように思えますが、国家権力に採用されてしてしまうとこんな無害に見える道徳教育さえ不都合を起こすことがあります。
権力者に利用されやすい
儒教は秦の始皇帝によって弾圧されたあと、漢代に「国教(国家権力が国民に学ぶことを義務付ける教育思想)」として復権しました。そのとき強調されたのは、仁よりも礼。臣下が主人に従い、子が親に従い、妻が夫に従う…等という「下位の者が上に従う」という義務ばかりが強く教えられたのです。
つまり、民に背かれることを恐れる国家権力が、「上に背くことは悪」と教え込むために歪めて教え込んだのですね。
しかし本当の儒教では、まず上にいる者(権力者)が君主(素晴らしい人)であることが求められます。暴君ではそもそも、国を治める「君主」として認められません。
孔子儒教のセキュリティパッチ
為政者の義務のほうを優先的に説き、「暴君は革命で廃すべし」※と説いているのが孔子の後に生まれた儒教の先生・孟子(もうし)です。漢代では『孟子』は奨励されていなかったものの、学ぶことを禁じられていたわけではないので、儒教の道徳観が偏りなく広まったと言えるでしょう。
いっぽう近代の日本では『孟子』が危険思想と呼ばれて否定され、ほとんど学ばれることがありませんでした。このため行き過ぎた臣民教育が行われて、「お上絶対」「上官命令絶対」となった結果、玉砕ばかりの悲惨な戦争を経験することになったのだと思います。
儒教は悪くない思想ですが、このように権力に悪用されがちな脆弱性を持ちますので、セキュリティパッチの『孟子』が不可欠と言えます。
※「暴君は革命で廃すべし」…孟子はこの通り明確に述べたわけではありません。あくまでも禅譲すべきだと述べたに留まります。それでも文脈では革命を説いたと解釈されますので、権力者からは危険視されています。
『孟子』について関連記事:
現代、儒教に対する激しい誤解
現在SNSの中華ヘイト・アカウントや偏った思想の歴史学者たちが、「儒教=中国共産党の思想=中華思想」という嘘の話をばらまいています。
儒教は中華思想ではありませんし、まして中国共産党の思想(笑)でもありません。そもそもネットで語られている「中華思想」は実在しない捏造フィクションです。
欧米知識人にこのような話をしたら笑われてしまいます、恥ずかしいのでやめましょう。また、無知に付け込まれて危険カルトに引き込まれることもあります。どうか鵜呑みにしないように気を付けてください。
参照
では、現代中華圏~日本で広まっている誤解を一つ一つ説いていきます。
現代中国の国教は「儒教」ではない
近年、中国共産党が孔子学院を作って儒教もどきを教えるようになったせいか、
「中国共産党は儒教を国教と定めている。孔子という悪魔が説いた儒教は、(ウイグル・チベット民族などの)虐殺を推奨している悪魔思想なのだ」
本気でこのように勘違いしている人が増えました。
これは全くの誤りです。このような主張を目にしたら信じてはいけません。
真実をお教えしましょう。現在の中国の国教は、「共産社会主義(マルクス思想)」です。共産社会主義は近代西洋で生まれた思想なので、中華とは無関係です。笑…
トンデモな「中華思想ヘイト」に気を付けて
昨今流行の中華ヘイト主義にはまっている人々は、ファシズムやナチズムなど欧米思想までも含めて、「世界中の暴力思想が中華思想から生まれたのだ!」と声高に主張します。もちろん妄言なので無視してください。家族がそのようなことを言い出したら、悪いお友達から引き離して精神科を受診させたほうがいいかもしれません。
現代中国における「儒教」の扱い
実は、現代中国では「儒教」は禁じられた思想です。今は表向きの施策で許容されているのですが、マルクス思想がベースにある国家では「儒教」などの伝統文化は本来、禁止ということになります。
実際、共産党は開国当初から儒教を禁じて弾圧してきました。
儒教の本を持っているだけで逮捕・処刑されましたし、本は焼かれて棄てられました。
まるで始皇帝の時代が蘇ったかのような、いや、それ以上に規模が大きくて処刑者も大量に出た現代の「焚書坑儒」でした。
「焚書坑儒」については下の記事参照。
中国共産党が今、儒教を許容しているのは何故か(現代解読)
長年あれだけ残虐非道なやり方で儒教を弾圧してきた中国共産党が、ここ二十年ほどで急に主義を翻して
「儒教スバラシイ」
「国民は儒教を学びなさい」
などと言って教え始めたのは何故でしょうか?
当然ながら裏があります。
人民支配を強めるため孔子を悪用
まず、中共は「儒教」が人民支配を強めるため悪用できる思想だと気付いたのでしょう。
当然ながら共産党が人民に学ぶことを許しているのは、自分たちが歪めて創作した儒教だけであり、『孟子』は禁書です。おそらく孟子の本を持っているだけで逮捕の口実となります。注意。
民族主義で騙して欧米を手玉に取る
それ以上に重要なことは、「民族主義」を掲げて欧米を騙し、手玉に取る作戦です。そのために漢代・漢人の思想である孔子儒教を世界に向けて宣伝することにしたのでしょう。
二十世紀初頭以降、欧米は民族が権利を主張すると弱い傾向があります。
そこで偽装として民族主義を掲げることで、台湾併合をスムーズに進められると考えたのではないでしょうか。
「漢民族による全土統一」「漢文化復興」――このスローガンはもちろん、孫文の盗用。
勘の良い方はお分かりかと思いますが、共産党が本気で民族主義を信奉しているわけではありません。
全ては欺瞞で偽装。
共産主義者に「民族」の概念など無いし、民族感情など微塵もありません。(そもそも人間の情など無いのですから)
今、中国共産党が行っていることはあくまでも共産主義的な支配計画です。資本主義社会を打ち倒し、社会主義革命を果たすという目標のため、金と権力を集めているだけです。民族主義などカモフラージュに過ぎない。
共産党が香港とともに台湾を支配したら、手のひらを返して再び儒教弾圧し、民族主義を捨て去ることは目に見えています。
お願い
現代中華を眺めるウォッチャーさんたちへ、強くお願いです。
共産党が教える儒教など嘘、民族主義も嘘! 全ての思想も歴史も歪めて発信されています。
どうか騙されないでください。
共産党のフィルターを通したもので学ぼうとしないように。
お奨め書籍と、読んではいけない本
最後に、リクエストいただきましたお奨め書籍について書いておきます。
申し訳ないのですが、近年に初版が出ている初心者向けの解説本は避けてください。
残念ながらこの分野で「わかりやすい解説」といって売られている初心者向けの書籍は、ほとんど中国共産党の思想に汚染されていると思われます。
『三国志』ジャンルで初心者向け解説本を、中共御用学者の渡邉義浩・柿沼陽平らが牛耳ってしまったように、中国思想ジャンルも御用学者に牛耳られている可能性が高いのです。
そこで少し難しいのですが、かなり昔に岩波書店から出された基本書を読むことをお奨めします。
原文が載った翻訳書であることが大切です。
……でも古典の中国思想はわりと退屈ですね。
特に『論語』は、私も全て読んでいるかと言うと怪しいものです。(記憶曖昧。笑)
現代中華をウォッチするためだけなら全てを読む必要はありませんので、前か後についている学者の解説を読むことをお奨めします。
YouTubeの番組はどうなの?
YouTubeなどで解説している講師さんたちの話は、分かりやすくて面白いものもありますが、やはり若干首を傾げるところもあります。話半分に聞いて、全て鵜呑みにしないようにしないほうがいいでしょう。
何故このように述べるかと言えば、やはりYouTubeも中共工作員に汚染されているからです。
今、ネットでは共産団体に所属している人たちのほうが強くて(大勢の工作員がクリックするので)、検索上位に上りやすい傾向にあるのです。真実を述べる歴史チャンネルは下のほうへ追いやられるか、垢BANされやすい傾向にあります。
少々難しくても、古典の基本書を読むほうが安全です。
読書ポイントはこのブログでもお教えしていきます。
〔アイキャッチ画像:台湾の孔子人形。Masa105さんによる〕
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