空旅中国「孔明が挑んだ蜀の道」レビュー

空旅中国「孔明が挑んだ蜀の道」レビュー

疲れる現代政治話が続きましたので、息抜きとして、純粋に歴史が好きな方のために書いた記事を上げておきます。

これはマニアさんにも好評を博した記事です。2019年8月14日放送『空旅中国「孔明が挑んだ蜀の道」』の感想。(NHKの番組なのにめずらしく問題ない内容でした。→NHK問題参照

内容は中級者以上向けです。

『三国志』のフィクションを一通り読み、これから史実も学ぼうとしている方でなければ少々難しい話と思いますが、初心者の方もいずれ読んでいただければ幸いです。

〔2019/8/19筆 本文常体〕

全体的なこと

先に全体の感想を述べると、歴史捏造などの歪みは感じずオーソドックスで良心的な内容だった。
解説は少々『演義』フィクション寄りなのかなと思うふしもあったが、細かいことを気にせず、現実景色を眺める目的なら十分に堪能できる。

何よりドローンでの「鳥瞰」は現代でなければ不可能なことだった。
しかも特別許可を得ての撮影が多いようだったので、個人ではとうてい不可能な視点で眺めることができたのは幸運だ。もしかしたら自分の足で現地へ行くよりも特別な体験となったかもしれない。

見逃された方は公式で配信されているので、良かったらどうぞ。“空旅中国 「孔明が挑んだ蜀の道」NHKオンデマンド”で検索してください。

以下、簡単な番組内容の紹介と感想。

成都~漢中 金牛道

出典:NHK「空旅中国 孔明が挑んだ蜀の道」

蜀の都、成都から漢中へ向かう道は「金牛道」と呼ばれる。
山の中を進む道のりに諸葛亮(孔明)の工夫があるという。

山道で馬が足を滑らせて骨折しないように、石畳へ切り込みを入れたり。崖から人馬が落ちないよう石積みのガードレールを造ったり。兵士たちが寒さや暑さを凌げるように、沿道へ柏を植えたり… 等々。

「沿道へ柏の木を植えて大木とし、日除けとした」という話はさすがに後世の人の作り話では? と私は思う。何故なら戦闘計画を立ててから出征するまでに、苗木が大木へ育つことは有り得ないので。入蜀してからの計算でもとうてい間に合わないだろうな。
大木を運んで植え替えるとしても大規模な土木工事となり、費用対効果を考えれば諸葛亮なら却下すると思う。

国費もまた人命に等しく大事なもの。国民の生活をないがしろにしての、釣り合いが取れない軍隊優先による浪費は有り得ない。

ただ、「人馬が落ちないように」との考えでのガードレールの敷設なら現実に諸葛亮も行った可能性が高い。
人命(馬命)第一。
それは人道主義からでもあるが、人馬を第一に守るのが軍隊の合理にもかなう。

(欧米なら当たり前。しかし太平洋戦争での日本軍には残念ながらこの考えが欠けていたのではないだろうか…? 現代中国政府はもっと人命軽視が酷過ぎるが)

※「人命第一=無駄死にさせない」、という意味。そもそも命が大事なら戦争するなという話になるが、戦争が避けられない状況であったのなら可能な限り命を守らなければならない、全力をかけて。始めから死なせるつもりの戦いなど有り得ない。

2022/6/15追記 用語解説【人道主義について】

「人道」という用語は、当記事では漢語~日本語一般の意味「人命人身を大切に思う気持ち、慈悲心等」として使っていたのですが、最近の左翼がこの用語を盗み「Humanism(アンチキリスト、人間優位。つまり左翼的な破壊者・殺戮者としての生き方)」という正反対の意味で使っています。そのように歪んだ解釈で「諸葛亮が人道主義者であるわけがない」と批判する者たちがいるようです。諸葛亮が左翼ではないのは当たり前のことですが(笑)、自分たちで言葉を盗んで定義を変えておきながら「コイツは違う」と誹謗中傷するのは困ったものです。

しかしこのように「人道」という言葉は盗まれてしまい、最近はバイデン米国大統領など左翼の方々が声高に使っていますので誤解を与えかねず、ここでの使用にも注意したいと思います。とりあえず記事タイトルから「人道」の言葉を消しました。

詳細はこちら:「人道主義」の言葉をタイトルから削除しました

この件で参考になりそうなマニアの意見:

そして諸葛亮ですが、彼は他とは評価基準が大きく異なります。
陳寿に評されるまでもなく、一般的な意味での将帥としては中流と言えると思います。可もなく不可もなし、卒はないし粗もなく、名将と呼ぶには物足りないですね。ただし、ある一点において彼は曹操をも上回る評価が出来ます。それは「消耗しない戦い方」です。
そもそも諸葛亮の戦歴と言えばほとんど南征と北伐だけなわけです。もともと将軍として活躍した人ではないので、司馬懿や陸遜、曹操などに比べて戦歴が劣るのはどうしても避けられません。しかし、この南征と北伐とはどちらも「三國時代に他に類を見ない特殊な戦い」であったことには注意が必要です。
…(略)…
さらに北伐に至っては国力を損耗すれば弱体化し魏に攻め込まれるリスクを負った状態で、消耗しない戦いが最重要事項だったわけです。そのため諸葛亮の戦い方は「自ら攻め込み、消耗する前に退く」という特殊なものになりました。この難しい条件の下で諸葛亮は7年も戦線を維持したわけです。これは曹操も、もちろん司馬懿も成し得ていない特殊な軍事的功績と言えるでしょう。

漢晋春秋さん 2018/8/2620:48:37

〔出典:知恵袋ログ〕

この方は完璧に現実を見抜いている。
諸葛亮は軍事において「国力を消耗することを恐れ」「一兵でも失うことを恐れた」者。古代的な名将ではないし東洋的ですらない。

柿沼陽平『劉備と諸葛亮 カネ勘定の…なんちゃら(諸葛亮は恐怖政治で民を虐げ国を衰退させた)』という誹謗中傷本の嘘を信じてはいけない。

誹謗中傷本はこちら

柿沼陽平『劉備と諸葛亮 カネ勘定の三国志』感想。諸葛亮は偉大な共産リーダー? 

ざっくりした『三国志』の説明には首を傾げる

さだまさし氏のナレーションで、「まずはざっくりとした三国志の紹介から」として語られたストーリーには首を傾げた。
「諸葛孔明は、呉をそそのかし魏と戦い、隙に乗じて蜀を奪った。これが三国志です」
と仰るのだが……。
そ、そそのかし?
隙に乗じて奪った?? 酷い。

フィクションのストーリーはそんなものか。まあ多くの三国志ファンの解釈も、こんなものだろうな。
苦々しく思いながらも、諦観の境地。
このような古典的な捏造話には慣れているのでスルーして先を観た。

 剣門関 山脈を潜り抜ける峡谷

剣門関

出典:同上

金牛道から漢中へ抜けるには、「大巴山脈」という険しい山を越えなければならない。
通常のルートで山越えをするのは難儀だが、山脈には大剣山と小剣山の間に渓谷があり、劉備ら蜀軍はこの渓谷を通って漢中へ進み曹操軍と戦った。諸葛亮も劉備の生前に漢中へ向かうにはこの谷を通り、北伐出征の際も当然ながらここを通って漢中・定軍山へ行き駐屯している。

両側を断崖絶壁に囲まれた狭い峡谷は天然の要塞だ。諸葛亮はここに「剣門関」という関所を置いて蜀を防衛した。
蜀の要塞であり、諸葛亮にとっては北伐出征の象徴ともなる道だったと言える。あらゆる意味で思い出深い場所だったろう。
個人的なことだが筆者はこの道の景色に最もインパクトを覚えた。

ロウ中古城の雰囲気はとても良い

北伐ルートから「寄り道」としてロウ中古城が映し出されたが、漢代の瓦屋根も残る街並みには心惹かれるものがある。
張飛が治めていたこの街は、今も張飛の人気が高い。張飛像も「他よりはイケメン」らしい。
中華ファンタジーの創作に出て来るような街だから、日本人も観光地として存分に楽しめる街だと思う。
いいなあ。いつか行ってみたい。

文革を潜り抜けて残った街は貴重。中国政府よ、破壊するなよ。

www.tripadvisor.jp

明月峡の桟道

出典:同上

北伐ルートとして有名な「蜀桟道」も取材されていた。有名だが意外と距離は短く2キロほど。
かつてはボロボロの板が崖に貼りついているだけ……というイメージだったのだが、今は桟道が復元されて観光地化されている。それでも高所恐怖症の方(あるいは中国政府の技術が信頼できない方)は歩きたくないかもしれないが。

1800年前の桟道と少しずらして復元したようで、当時の杭を打った穴などを観察できるようになっていた。
スパッと四角くきれいに切り取られた穴は、どのような技術を用いて削られたのか今も分かっていないという。他に、杭が抜けないよう斜めに削るなどの高度な技術も用いられている。詳しくは番組参照。

番組ではしきりに「これぞ孔明の技術!」などと持ち上げていたが、あれは職人の技術だと思う……。職人を褒めるべきだろう。ただ諸葛亮が高度な技術を持つ職人を大事にした、という証拠とはなるかもしれない。

「落石しそうな箇所を読んで、人馬を守るための屋根を造った」という話はいかにも諸葛亮らしい
ここも人命(馬命)第一主義が出ている。

影絵を子供に見せていたお母さん

伝統の影絵を子供に見せるために連れてきた若いお母さんがNHKインタビューに答え、返した言葉が私には最大の衝撃だった。

出典:同上

「子供に影絵を見せに来ました。好きだと思うし文化的な価値もあります。幼い頃から三国志を知って誇りを感じて欲しいの」
と言う奥さんの「誇り」という言葉に驚く。
「政治利用で捏造されるくらいなら『三国志』など消滅してしまえ!」
などと願ってしまい本当にごめんなさい。深く詫びる。

文革で破壊され、今は歪んだ歴史教育を受けていて、若い世代はほとんど三国志など興味がないと思っていたのだった。
日本のネットでもまことしやかに
「中国の若い人たちはほとんど三国志を知らない。むしろ日本人のほうが三国志に詳しい。知っている人たちの間でも、蜀は不人気で曹操が圧倒人気」
という話が流布されているのだが、これは日本の左翼工作員の捏造話だったのだね。

最近、大陸に住む人から伺ったのだが、やはり大陸人の歴史知識は日本人を圧倒で上回るらしい。(ただし古代史に限る。近現代史は捏造されているから駄目だと思う)
日本人と違って『三国志』も趣味としてではなく、子供の頃から歴史学として習ってきたため意識が違うとのこと。
そしてそんな大陸では今も蜀が人気。かつて『演義』の影響や、儒教廃絶の国家政策によって不人気だった諸葛亮も、史実がよく知られるようになり復権した……かな。

政権によって歴史捏造で貶められたり持ち上げられたり悲惨な三国人物だが、「三国志は誇り」と言う大陸一般市民のために「消滅しろ!」と呪いをかけるのはやめておく。

木牛流馬の疑問

番組で、諸葛亮が考案したという「木牛流馬」が映り、その形や説明に疑問を抱いた。

木牛流馬

出典:同上

「食料を運ぶために造った」
「カラクリ箱で、敵に奪取されても開けられないようにしてあった」
と説明されていたのだが……。

うーん。ごめん、なんとなく違う気がする。

木牛流馬は陳寿が「諸葛亮の独自性」や「創意工夫」を示すエピソードとして記録しているので事実あったのだろう。(陳寿は会話文以外で、無かった事実を書かない
具体的にどんなものだったのかは記録がなく分かっていないのだが、「食料を運ぶためのカラクリ箱」と言うのは違うのではないだろうか。

糧秣は敵に奪取された時点で軍隊にとって大ダメージだ。
“敵を利することのないように”カラクリを施しておくというのも、武器を運んでいるなら有り得るが食料だとすれば費用対効果で考えづらい。カラクリの造形に金をかけるわけにいかないということだ。そんな金があるなら護衛兵の装備を増やすほうを優先すべき。
牛や馬の造形も、あれほど精巧なものを造れば費用がかかり過ぎる。(画像にあるレプリカについてだが、そもそも車輪が無いのではどうやって運ぶ?)

私も具体的にどんなものだったかはっきりとは分からないのだが、ある意味でトロイの木馬だと考えたほうがいいだろう。つまり
「牛や馬の形をした車を引いて軍を大きく見せた」
説が最も妥当と思う。(実際、兵士を入れてトロイの木馬として使うことを想定していたかもしれない。普段は荷車)
だから造形はもっとシンプルだったはずだ、遠目に見て牛馬と錯覚させれば良いだけなので。
とにかく兵も牛馬も節約しなければならないし、費用も節約しなければならない※。敵へ見せかけるパフォーマンスに苦心した戦闘だったと考えられる。

※柿沼陽平が言うように「北伐戦は恐怖政治で国民を脅し、無理やり金をまきあげて飢餓へ追いやり、湯水のごとく軍事費を注ぎ込んだ戦闘」なのではない。共産主義者ではあるまいし、諸葛亮は国民を飢え死にさせて平気でいられるタイプの政治家ではない
日本にいる左翼の人たちは、どうも自分たちの親と崇める中共などの政権しか想像できないらしい。その乏しい発想のまま歴史人物を解釈する思考回路しか持たない。おそらく彼らは「国民は我々共産主義者の奴隷」という考えに性根から洗脳されているのだろう。人命軽視のこの思想のほうこそ消滅して欲しい。

漢中・定軍山・白帝城

漢中・定軍山は諸葛亮にとって最も思い出深い「青春の地」との番組解説。……青春と言っても三十代だが、劉備たち上世代が生きていた時代は確かに輝かしく思い出深いだろう。

ここの辺りは三国志ファンが最も興味ある地だろうけど、私はあまり深入りしたくない気分なので省略。
オーソドックスな話ばかりだから特に指摘することもない。

一点だけ突っ込み。
迂回路となったキ山道で、
「みごとな段々畑です。こんな田園地帯を通れば兵士の食糧も確保しやすかったでしょう」
などという解説がなされていたが、食糧の現地調達などすれば住民に迷惑がかかるし、任意で提供してもらうのも限度がある。兵士の食糧はあらかじめ確保しておくのが基本だ。
そもそも諸葛亮は糧秣が確保できなくなった時点で進軍をやめ帰還している。糧秣など兵站の確保は軍師が最も気を遣うべきことだから、現地調達前提の不安定な状況で進軍するのはタブーと思う。

 

最後。

諸葛亮の墓は、日本の古墳のミニミニサイズ版という印象を受けた。
雰囲気も日本の神社ふうで、日本人が観光で訪れても心が落ち着きそうだ。

諸葛亮の墓

出典:同上

以上。疲れたのでこの辺で。
また何か書きたくなったら書きます。

※※ 注意と追記 ※※

この項目は現代の政治に関わる話。

【2019/11/17注意喚起】旅行には行かないで!!

現在、香港デモの影響で中国情勢は緊迫しています。新聞テレビ等で一切報道されていませんが、中国を訪れた日本人が何人も拘束されており解放の目途も立っていません。

この記事では中国の観光地について紹介しています。しかし興味を抱いたからと言って、不要不急の中国旅行はされないようにお願い致します。

お仕事等でどうしても中国へ行かねばならない場合、空港でスマートフォンのデータをチェックされ拘束される事例が多くありますので、予めデータを削除(アプリごと削除)して入国されますよう注意喚起しておきます。特に、当ブログには香港デモに関する記事がありますから、必ず閲覧記録を削除してから空港へ降りるようお願い申し上げます。
筆者もいつか成都へ行きたいと願っていましたが、生きている間に中国情勢が良くなることは叶いそうにありません。涙を呑んで踏みとどまります。

(2020年1月現在。さらに新型コロナウィルス大流行中です。三国志ツアーはコロナウィルスが発生した武漢が中心となります、旅行はおやめください)

NHK問題

今回の番組を見て、よほど歴史捏造がひどかったらN国へ投票しようという決意を固めて観ました。でも今回はオーソドックスで悪意は感じらませんでした(あくまでも内容は)。

おそらく日本人の中国イメージを上げる・日本人を中国旅行に誘うという意図はあります。しかし台本には中国共産党の思惑は影響ないようです。おそらく中共が嫌っている諸葛亮に関する話だから放置したのでしょう……笑。

スタッフの方にはむしろ番組を作ってくれたことに感謝したいです。

NHKは悪意ある有害な番組と、良質な番組とで差が極端です。なかには命懸けで中共の不正を伝える取材をしている番組もあります。いっぽう中共の言うなりと思われる極端な歴史捏造番組も多々あり、そういう外国が自国を侵略するためにばらまいているプロパガンダにまで受信料を払わなければならない現状には納得がいきません。

N国のような「ぶっ潰す」との考えは少々行き過ぎかもしれない(歴史捏造の番組を見かけたときは私もそう思ってしまうが)。 ただ放送法の改正は必要。災害情報などの公共番組を安価で放送し、娯楽の番組は有料とするなど。ドラマ・ドキュメンタリーは好みの番組だけ見られる切り売りで充分です。

追記:
この番組は良質でしたが、次に観た『ヒストリア』は「蜀貶め」プロパガンダでした。日本人の心となった人形劇を踏みにじり、捏造の歴史をばらまく。このような犯罪をするNHKの反日幹部たちが許せません。放送法を改正して外国プロパガンダを排除し、良い番組だけオンデマンドで買えるようにすべきです。

(最後だけ疲れる話を書いて申し訳ない)

参照

ヒストリア『三国志英雄たちの秘密』人形劇ファンの心を踏みにじった精神暴力

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