『琅琊榜』『晩媚と影』華流ドラマの謎…諸葛孔明モチーフに篭められた意味とは?

『琅琊榜』『晩媚と影』華流ドラマの謎…諸葛孔明モチーフに篭められた意味とは?

〔アイキャッチ画像は公式サイトより引用。2022/3/13『蜀山戦記』は台湾ドラマらしいのでカットしました〕

華流ドラマ『琅琊榜(ろうやぼう)』は必見のお奨めドラマです。年末年始休みに視聴にいかが。

公式サイトからイントロダクション引用:

全編にわたって伏線が張り巡らされた緻密なストーリー、手に汗握る迫力のアクション、義に溢れた男たちの情と絆を描き、中国で放送されるや大きな反響を呼び起こした2015年最高のヒット作。中国版エミー賞といわれる『2015年度國劇盛典』では、「影響力のあったドラマ賞」「最優秀男優賞」を始め、最多の10冠を獲得した神ドラマだ。インターネットでの反響もすさまじく、中国版Twitter「微博」ではドラマジャンルで過去最高となる226万回の検索数を記録、ネット放送の視聴数60億回超という驚異の数字をたたき出した。

皇帝の座を巡る皇子たちの争いと梅長蘇の復讐が複雑に絡んだストーリーが圧巻。愛する者に身分を隠しながら大義に挑む姿は切なくも、敵の目を巧みに欺く梅長蘇の鮮やかな手並みには惚れ惚れとさせられる。その策士ぶりは、天才軍師・諸葛孔明をも超えるとも言われ、辛口で知られる中国のサイト・豆瓣で10点中9.3点という、国内ドラマ最高となる評価を引き出し た。また、過酷な運命を背負った梅長蘇の生き様が大きな感動を呼び、「中国ドラマ最高のクオリティ作品」と絶賛された。日本初放送となったチャンネル銀河の視聴者の間でも、熱い反応を呼び起こし、放送終了するや否や再放送決定。

当記事ではこのドラマのレビューと、他華流ドラマも含めた「考察」をしております。

 

『琅琊榜』最後まで観た私の感想

公式サイトで「一般からの評価が高かった」と紹介されていることについて、「またまたあ。共産中国らしいプロパガンダでは?」と始め疑っていたのですが、掛け値なしに素晴らしい作品でした。上の絶賛評価でも控えめではと思うくらいです。

私も華流ドラマはいくつか観ましたが、おそらく現代中国では唯一にして最高の“芸術”作品だと思います。

芸術と言ってもそれほどお堅いわけでもなく… あくまでもエンターテイメント・ドラマであり武侠ファンタジーの要素も若干あります。シリアスドラマなのに人が空を飛んだり忍者が出てくる場面は、個人的にはちょっと萎えました。他の華流に比べたら控えめですけどね。謀略の設定にも粗さがあります。後から梅長蘇に「それは全て私の計画です」と言わせれば観客を納得させられると思っているフシがある。こういうところに手を抜いてしまうのは華流ドラマの癖。これは『三國演義』の弊害なのでしょう、いかがなものかと思います。

しかし、物語性は圧巻でした。人物像、人間心理は徹底的に緻密に設定されています。映像や役者さんたちの演技も素晴らしい。音楽も風景も、建物や服装も美しい。日本や欧米でもここまでのクオリティの芸術作品はなかなか見当たらない。

さらに台詞の一つ一つが重く深いメッセージ性を持ちます。とにかく思想が深いことには感服しました。『史記』『三国志』など古典はもちろん儒教等の古代中華思想を踏まえているうえ、現代中国人としてのブレない信念を命懸けで発信している。義を含む熱い言葉に、何度も泣かされました。

このドラマには本物の仁義(心に宿る愛、正義のこと)があります。描きたかったのはそちらのほうだと気付いてからは、表層の難点は吹き飛びました。国宝級の品がチープな紙で包装されいるようなもの、観るべきは中身のほう。

まさか、現代中国人から「天道」という言葉を聞くとは思わず泣いてしまいました。あの文化大革命を経てもなお生き残っていた華人の心に感動。感謝。「天道」を今日まで伝えてくれて本当にありがとう、ありがとう。

 

そして、最終回は泣き伏せてしまってほとんど観ることができませんでした…苦笑。(個人的事情のせいもあります)

だから今回もう一度最初からじっくり観たいなと思っています。再配信に感謝。年始の休みにはぜひ一気見したいですね。

一般評価

このドラマは日本でも辛辣な匿名レビュアーが多いGYAOにて、★4.7というあまり見かけることのない高評価を得ています。しかも少人数が書き込んだ結果なのではなく、なんと2021年末現在2250件のレビューを受けてこの評価。

2250レビューという数にも驚いてしまいますが、内容の熱烈さにも圧倒されます。皆さん何度も観て深く物語に入り込んでらっしゃる。

なお、このドラマは内容から言って全く中国政府寄りではありませんので、五毛党・左翼の工作員は皆無です(笑)。

やはり非工作員の一般人の評価は正確だなと思いました。こういう一般人の声が正しく反映されたなら国も良くなるのにね。

 

現実と照らし合わせた見方

私が華流ドラマを観るようになったのは2019年から。

香港デモの後、現代の中国大陸の庶民がどのような世界観に触れているのか知りたかったので観始めたのですが、『琅琊榜』などは思いがけない収穫でした。今、大陸人の心が蘇っていることを知ることができたからです。

かつての中国製ドラマと言えば、中国共産党のプロパガンダしかなかったはず。日本兵と闘う反日ドラマや、毛沢東を賛美するドラマしかなかったと聞いています。

私の若い頃はもう少しマシになっていて、ようやく『三國演義』などの古典が復興したらしく官製ドラマが日本にも輸出されていました。私もレンタルビデオ店で貸りて観ようと試みたのですが、とてもチープでクセが強過ぎる映像だったため冒頭でギブアップしたのを覚えています。大仰な役者さんの顔芸も受け付けず。(すみません、そもそも『三国志』フィクションが苦手な私個人の感想です。日本人でも時代劇が好きな人は大丈夫かもしれません)

その頃に比べれば映像、音楽、役者の演技、思想……等々、全てが遥かに進歩したと思います。

何より、検閲を受けているはずなのに庶民の本音メッセージが篭められていることには驚きました。

もちろん歴史物には相変わらず共産党のプロパガンダ臭が強く残ります。むしろ昔より功名になったぶん悪質性が増しました。洗脳対象として外国人(特に日本人)をターゲットにしていることも腹立たしいです。たとえば『三国志Three Kingdoms(2010年)』、『三国志 Secret of Three Kingdoms』などは、あからさまに日本人をターゲットとしたプロパガンダ作品でした(歴史反転、曹操崇拝プロパガンダです)。それでも『三国志TK』には制作者が必死で本音を篭めようとしたことが感じられ、胸が痛みましたが。

いっぽう架空設定の武侠ものファンタジーでは検閲が緩いのか? 比較的に庶民の本音を反映することが可能なようです。

庶民の本音を反映したドラマの最高峰が『琅琊榜』だったでしょう。『琅琊榜』には政府プロパガンダがほぼ感じられないどころか、腐敗した国家への批判メッセージも含まれていると感じます。露骨な台詞の数々には冷汗が出るほどです。これが共産国で放映され、多くの国民が目撃したということは奇跡だと感じます。制作者の凄まじい信念と勇気を感じますが、「監督さん脚本家さん大丈夫なのだろうか?」と心配になります。今、ご無事なのでしょうか?

隋唐演義(ずいとうえんぎ)』という古典を原作としたドラマも、堂々と庶民に寄り添った仁義ものです。これは圧政に抵抗する人々が立ち上がって独裁者を倒す、典型的な革命(古代中華の意味で。否共産革命)ドラマ。当然ながらプロパガンダゼロ。共産党政府がこんな暴政否定の独裁転覆ドラマを指示したのだとしたらびっくりですよ(笑)。古典の『三國演義』への強いリスペクトも描かれていました。このドラマに篭められたメッセージは明白です。よく検閲通ったなと感心します。

【古代中華の革命の意味】易姓革命とは何か? 早過ぎた民主リコール制度

しかしこのようなドラマが制作されたのは2012年~2015年頃。まだ胡錦涛政権による古典奨励政策の雰囲気を引きずっていた頃で、言論自由とまではいかなくとも少し緩やかだったのかもしれません。「プラハの春」ならぬ「北京の春」だったのでしょう。

習近平政権の締め付けが厳しくなり、毛沢東の文革時代へ戻っていく大陸では上のようなドラマを今後創るのは難しいのではないでしょうか。これからどんどんまたチープな共産国製ドラマへ戻っていくことでしょう。

それでもドラマ制作者たちは、細い細い孔を通して手紙を届けるようにメッセージを篭めるかもしれません。

我々は決死のメッセージを読むため目を凝らさなければならないと言えます。

 

暗喩を読み取る力を使う

言論統制されている国からのメッセージを読むためには、暗喩を読み取る力が必要です。ストレートなメッセージでは処刑されてしまいますので、当然ながら一見分からないような装いで隠されています。

たとえば「くまのプーさんは習近平を表す」、「パンダは公安」などは有名な話。有名となってしまうとすぐ取り締まられて禁句となり、スラングが無効となってしまうのですが。

 

現代大陸人が「諸葛亮」に篭めるメッセージとは何なのか…

どうやら、「庶民の本音メッセージ」を反映していると思われるドラマには“孔明モチーフ”が使われている確率が高いようです。意味は何となく推測はできますが、はっきり分かりません。

「孔明って何?」と思われた方はこちらへ:

孔明ってどんな人だったの?に回答。諸葛亮の実像・性格分析【年表あり】

たとえば『琅琊榜』の梅長蘇が孔明をモデルにしたキャラクターであることは中国人なら分かるはず。分からない日本人のために説明しておきますと、“琅琊”は孔明の出身地です。また、頭が抜群に良くて策では強いのですが身体が弱くて闘うことはできない。病気で寿命は長くない…等々、このような設定から中国人は孔明がモデルだと理解するはずです(私はこのドラマで、中国人が孔明のことをどう見てきたか学ぶことができました)。ラストの展開はさらに露骨で、諸葛亮の晩年そのものを表していました。

今年の春ごろに私が観ていた『晩媚と影(媚者無疆)』も、実は諸葛亮と曹操の闘いをイメージしていたことを最終回で確信しました。そもそもこのドラマには会話のなかで露骨に「諸葛亮/孔明」の名が何度も出てきます。また、おそらく病弱な策謀家キャラクター“若様”はフィクション孔明を、主役の晩媚ちゃんは女性ですが史実の諸葛亮を表しているのだと思われます(人殺しが苦手な彼女のキャラは確かに史実です)。彼女が持つことになる団扇も象徴的。当然ながら、晩媚が立ち向かう残虐な女城主は曹操がモデルでしょう。

このように孔明モチーフのオンパレードは、歴史物ではないと思って安心して観ている筆者にとってはたまったものではありません。不意打ちに登場する孔明の暗喩に毎回心をかき乱され参っています。

しかしさすがにここまで頻出すると、孔明モチーフにこそ民側の重要な本音メッセージが含まれているのだと気付かざるを得ませんね。

おそらく中国共産党が敵視している「劉備」を持ちだすのは大変危険なので、グレーな「諸葛孔明」を使っているのだと推測されますが……。

良い意味なのか悪い意味なのか? 具体的にはどういうメッセージを示すのか、今のところまだ分からずにいます。『琅琊榜』を観た限りでは決して悪い意味ではなさそうですけど、どうなのでしょう。

――ご存知の方は、こっそり筆者に教えていただけるとありがたいです。秘密は守ります。

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